天外魔境II図解台詞集特集
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【浪華の火の玉小僧!鳥居堂三郎誕生】#02

 ――出雲の国・黄泉平。まだ人知れず根の一族が暮らしていた。 その地下深くには様々な研究をする施設があり、 根の一族の中でも特に知性と探究心に溢れた”イヒカの民”と呼ばれる者たちが、 日々強さを求めて研究をしていた。
 根の研究施設の中でも特に極秘で、限られた一部の研究者しか立ち入りの許されない最深部、 まだ未整備で土がむき出しになっている洞窟の突き当たりの壁に、 見上げるほど巨大な緑の植物とも肉の塊とも見分けがつかない何かが露出し、ドクドクと脈打っていた。
 緑の何かを見上げる一人のイヒカの民がいた。 名をキラリンといい、機械強化研究所の所長である。じっと何かを待っている様子。 すると背後からもう一人、女性のイヒカの民が小走りでやってきた。

 「キラリン様〜試用許可おりましたぁー」

 軽く甲高い声で報告する少女。名をソーラといい、 キラリンの秘書・助手を務めている。

 「…どうも。これが恐れ多くもヨミ様の根を利用した高速転送路”根路(ネロ)”か。どうやって使うの?」

 ネロは、休眠状態のヨミの強靭な根に改造を施し、 全国の地下へ伸ばした根の中を通って長距離移動を高速に行える生体強化研究所の新発明だ。

 「え〜っと、ちゃんと知恵がついてましてぇ、対話が可能だと聞いてますよ〜」

 「…へぇ。カラクリではそのあたりは難しいんだけどね。さすが生体班の成果だね。お〜い、ネロ君」

 目の前の緑の物体に、キラリンと呼ばれた人物が話しかけると、 中心に縦に走る裂け目が口のようにしゃべり、洞窟内に低く響いた。

 「あいあい…まずは声と手形の登録をお願いしますだよ。声はもうええので、手を突っ込んでくださいまし」

 キラリンは裂け目に手を突っ込むと、ネロは大きく脈打った。

 「あいあい…キラリン様ですな。登録完了ですだ。で、どこへ行きたいんだねぇ?」

 「…どこへ…そうだね。綺麗な海のある所がいいな。情報収集のために人のたくさんいる所。 それと試運転だし、ある程度遠い所がいいね。…そんな所ある?」

 「あいあい…それなら〜浪華あたりでいかがでしょ?」

 「…かかる時間は?」

 「え〜…大体20分もあれば到着すっかなぁ」

 「…よし、ではそこへ行こう。ソーラさん…そうですね、24時間経過して戻らなかったら報告、救助を頼みます」

 「はぁーい。りょうかいでぇーす」

 「…で、どうやって行くの?」

 「あいあい…口ん中入ってくださればよいですだ」

 キラリンがネロの口の中へ手を入れると、一気にジュルっと中へ引き込まれた。 水の中を突き進むような感覚…。頭部にはちゃんと空気の層を作って呼吸が出来るようになっていた。

 「…なかなかよく出来ている。ネロ君、到着したらどうなります?」

 「んぁ〜到着しましたら私が地上へ土を掘り起こしてちゃんと出して差し上げますだ」

 「…わかりました。近付いたら教えてください」

 「わっかりやした〜」

 連日の研究で疲弊しているキラリンは到着までの20分、仮眠をとることにした。 そして20分後。

 「キラリン様キラリン様! 到着だでよ〜起きてくだせぇよ〜」

 「…うむ。では出してください。あ、それと帰りはどうしたら?」

 「あいあい…帰りは出たとこであっしをお呼びくださいまし。 今昼間だで眩しいと思うから、目はつぶっていたほうがいいと思うで」

 「…うむ、わかりました」

 ゴリゴリと土の中にネロが新しい根を這わせて地上へ掘り進み、 続いてその中をキラリンが流れて行く。 まぶたの上からでも感じる光…いよいよ地上へ出たかと目を開けようとした瞬間…

 「ギャー!」

 強い衝撃が頭を襲い、キラリンは気を失ってしまった。 意識が遠のく中…自分と同じくらいの男の子の声が聞こえたような気がした。


 ――つづく
あとがき

 二話目にしていきなりオリジナルキャラクターが主役…。申し訳ない。 イヒカで名のある人というとクマナしかいないわけですが、 クマナは紀伊に移り住んだ人の中の長であり、三郎と一番親密にした人が、 浪華を離れてしまうことに、個人的に違和感があったので、もうこれはオリジナルで一人作るしかないなと思った次第です。
 この話の一番のポイントは、根の一族が地面から沸いて出てくるということの理由付けです。 こんな感じで出てきてたんじゃないのかな?と。もし各個人が穴を掘っていたりとかだと、 緊急時には穴掘って逃げられるんじゃ?とか、見た目穴なんか掘れそうにないのに?とか、 出雲から紀伊とかまでずっと穴掘ってくるの!?とか、 暗黒ランが無くなった後は出てこない理由にも(ヨミの吐息が無いので戦意喪失という理由もあるんですが) なるかなと思い、こんな感じの設定をつけてみました。
 ネロというのはそのまま根っこの路だからです。わりとそれっぽくて気に入ってます。
 「キラリン」という名前は、これから戦争しようとしている人たちなら、 結構好戦的な、ちょっと残虐な感じの意味の名前にするだろうと考えたためです。 そして、デーロンやデロレンなどが、意味的にとても綺麗なものなので、 一般的に気持ち悪い響きの言葉が綺麗な意味なら、逆に綺麗な響きの言葉は悪〜い意味の言葉になるんじゃないか?と考えたからです。 「殺戮」とか「虐待」とか、悪〜い感じの意味になると思っといてください。 語呂的に「キラ」だけでもいいかなとも考えたんですが、有名な漫画の主役と被るのと、 「リン」をつけたほうが、デーロン達と響きが近くていいだろうと思ったからです。
 キラリンの助手「ソーラ」も命名理由はほぼ同一。 割とシリアスな内容になりそうだったので、ちょっとふざけたキャラ入れておいたほうがいいかなと…。 細かい説明をさせるにも使えそうだし。
 「時間」の概念や単位ですが、この当時は漏刻というものが主流だったようですが、 それで時間を説明するのが大変(よく勉強しないと私もわからない)なので、 現在一般的な時、分、秒で話進めます。