天外魔境II図解台詞集特集
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【浪華の火の玉小僧!鳥居堂三郎誕生】#05

 ――あらすじ――
 いよいよ大戦が近いという母の予知を受けて、マリのお導きを得るべく近江の火の都へ向かう事にした鳥居一家だった。


 家族会議の翌日、早朝から出発準備。昼には浪華を出発。京を経由して近江へと着いたのは夜だった。

 「ハァ…父ちゃんもう疲れたよ〜まだなの〜?」

 「もうちょっとだ。ほら、そこの崖から都が見えるはずだぞ」

 「こんな真っ暗で何も見えるわけないじゃんかぁ…」

 といいつつ、三郎は疲れた足に鞭を打ち、崖の先端へ小走りした。 そこから火の都の街の灯りが輝いていた。鳥居町では日が暮れるともうあとは寝るだけで、 夜は真っ暗で当然だった。三郎には初めて見る景色だった。

 「お〜ここが火の都…父ちゃんと母ちゃんの故郷かぁ〜すっげーな〜。夜なのに明るいぞ」

 「大きな都は夜もおそくまで起きているものだ。今日はとりあえず宿だな。明日早朝マリ様に会いに行く。すぐ休もう」

 早速宿を見つけ就寝。だが三郎は色んな物への興味や明日への期待でなかなか寝付けずにいた。


 ――翌朝、手早く支度を済ませ、父・正之助と次兄・二郎、そして三郎の三人で出発した。 母はせっかく来た都でお買い物。長兄・一郎はその付き添いをすることにした。

 「ふぁ〜… え〜? 二人はマリ様に会わないのか?」

 「俺は昔、一度お会いしているからね」

 「私もね。会ったところで世間話しているほどの余裕はおそらく無いでしょう。 父ちゃん達の邪魔になるしね。会ったこと無いあんたたちだけいけば充分よ。 あんた達も邪魔しちゃだめだよ? 特に三郎! マリ様の前であくびなんかすんじゃないよ!」

 「なんだよ〜わかってるよー!」

 「うむ…おそらく幹部はみなそろっている事だろう。急ごう」

 三人は都の中心部にそびえる神殿へと向かった。

 「うわ〜変な建物だなー! これ石か?」

 初めて見る建築物に三郎は興味津々だったが、 神殿の入り口へ着くなり、若い警備兵に怒鳴られた。

 「オイ待て! 今大事な会議中だ。部外者は入れぬ」

 「おいおい…俺、俺!」

 「はぁ…?」

 警備兵は自分の顔を指差す正之助の顔を見て、さらに全身をじっくり見回す。

 「貴様のような小さいおっさん知るか!」

 「ブハハ! 小さいおっさんだってー」

 三郎は大笑い。

 「!! 小さいおっさんだぁ…? こんのヤロ!」

 「お待ちなさい」

 正之助が警備兵の態度に拳を握り締めた時、奥から女性の美しい声がした。

 「は! これは男姫(オトヒメ)様!」

 「そのお方は七賢人のひとり…鳥居正之助様ですよ」

 「ぅええ!? このおっさ…お方が! 申し訳ありません!」

 「フンッ! まぁいい。移住して随分経つからな」

 「ふふ…まだまだお子様ですね、正之助様」

 「お前は随分しとやかになったもんだな」

 「おっと! これはこれは! こんな所で何をしておられるのです?」

 交代の年配の警備兵がやってきた。

 「すいません! 私が鳥居様を止めてしまって…」

 「構わんよ。行こう男姫」

 「ええ」

 正之助達と男姫は神殿の奥へと進んだ。

 「はぁ〜やべー…俺クビかなぁ…」

 「そんな心の狭いお方じゃないわ。 鳥居様はマリ様のお導きで十五年も前に浪華へ移住しなさったからな。お前が知らんでも仕方あるまい」


 ――神殿の廊下で

 「すみません。私がお迎えするよう言われていたのですが遅れてしまって面倒な事になったようで」

 「やはりマリ様はわかっていらっしゃったか」

 「しかしなぜそのような格好で? 怪しまれても仕方ありませんよ?」

 「服はちょっと急いできたんでな…制服を忘れてしまったんだ」

 「ふ〜ん… ん?」

 正之助の服を見ていると、二人の子供が目に入った。

 「そちらはお子様ですか?」

 「あぁ、そうだ。せっかくなんでマリ様に一度お目通りをと思ってな。戦が始まってはそんな暇も無いだろうし」

 「戦…そうですね」

 「なぁなぁ〜このおばちゃん誰なんだ?」

 三郎が正之助にそう問うと、男姫は足を止め、体がふるふると震え出した。

 「おば…おばちゃん…? なんじゃこんガキャー!!」

 「ギャー!」

 男姫は突然豹変し、後ろを振り向くと顔を真っ赤にして三郎につかみかかった。正之助は大笑い。

 「うははは! 出た出た男姫が。やっぱりそうそう人は変わらんか。 だが許してやってくれ。確かにガキから見たらいいおばちゃんだろうが?」

 正之助がなだめると男姫は三郎を離した。

 「ぐう…まだ20代です!」

 「このおば…お姉ちゃんはなぁ、あ〜…今は七賢人になったんだったかな? 火の偉い幹部なんだぞ〜。 今は父ちゃんの同僚という事になるな」

 「へ…へぇ〜」

 三郎はおそるおそる男姫を見た。

 「ったく…マリ様にそのような失礼の無いようにお願いしますよ! さぁ…議会場です」

 男姫は重い扉をゆっくりと押し開けた。

 ――つづく
あとがき

 浪華から近江まで昼〜夜となっていますが、実際に人が歩いてどのくらいの速度で到達する距離なのか、よくわからないので、かなり適当です。 ただ、そこは火の一族なわけですから、地図上で神戸から琵琶湖あたりまで、直線で約100km。常人の歩行速度が時速にして約5km。休まず歩いて20時間。 それを約6〜7時間で歩いたとすると、火の一族が相当すごいことがわかるかな〜と。 しかも実際には山を越えたりもするわけですからね。
 七賢人…なんていってますけど、その他の人物についてまだ考えてません。 基本的に七人の火の勇者のちょっと上の世代の方々をと考えています。 なので、男姫は女彦の姉っていう事になることがわかっていただけると助かります。
 そうしたのは、千年前の戦争が、結構な長さであったことや、かなりの火の一族が死に絶えたらしい事から、 そのくらいの世代交代みたいなことがあったんじゃないかなということからです。
 元々は「男火姫」くらいにしたほうが火の一族っぽさも出ていいかなとも思ったんですが、 「女彦」との対比であるなら「男姫」かなということにしました。 読み方が「オトコヒメ」だと、流石にちょっとかわいそうな気がしたので「オトヒメ」にしました。
 そんな男姫の登場とキャラ紹介的な話でしたが、とりたてて活躍する予定は現段階ではありません。