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【浪華の火の玉小僧!鳥居堂三郎誕生】#08 |
――あらすじ―― 三郎一家は出雲へ仕事で旅立つ事になった。 帰宅後の翌日、父母は当分仕事が出来なくなる事、大事な用事で出雲へ出向く事を関係各所に伝え歩いた。 まだ戦の準備であることは控えて。 兄二人はすでに支度を済ませ、自宅での最後の武術鍛錬に汗を流していた。 三郎はそれを隅でぼんやりと見つめていた。 「戦かぁ〜…」 「…暗いですね。どうしました? それがいつもの三郎殿ですか」 突然聞きなれないが、聞いたことのある声に話しかけられて、三郎はびっくりして振り向くと、 隣にはキラリンが座っていた。箱を覗き込んで何かしている。 「びっくりした〜! また来たんだな〜キラリン。 ごめんなずいぶん留守にしちまって。何度か来てくれたみたいなのに。…なんか戦が始まるんだってさ」 「…戦なんてそこらじゅうでよくあることではないですか」 「そうだけど…な〜んか違うみたいなんだよ。 オイラ残してみんな出雲行っちゃうっていうし……それ、何してるの?」 三郎は不安もまだあったが、キラリンがじーっと見つめている箱にもう興味が移ってしまった。 「…これは録画機です。目の前の光景を保存しておけます」 「ふ〜ん…なんかよくわからんけど。保存かぁ。今、兄ちゃんたちの姿を保存してるってこと?」 「…そういうことです」 「なんで?」 「…うむ。いい動きをしているので。私の周りにはいないんで探しに来たんです。すぐ近くにいい素材がいて助かりました」 「へ〜。キラリンすげー強かったのにな〜」 「…私の周りでは私だけが強いから、いい勝負映像が撮れないのです」 「保存してあとでまた見たいのか?」 「…それも出来ますが、最大の目的は動作の情報です。例えば…三郎殿は弱いが、この男たちと同じ動きが出来たらどうです?」 「兄ちゃんたちと同じ動き出来たらすっげーな〜」 「…そうでしょう? すぐに強くなれるのです。というか…二人は三郎殿のご兄弟でしたか。三郎殿は鍛錬しないのですか?」 「オイラ、才能無ぇーんだよ。体も小さいし。あんまり戦にも参加したくねぇなぁ…。 そもそもオイラは出雲につれてってもらえねぇけど」 「…何もしないのですか? 殺されたらおしまいですよ。 兄達だけを頼るのですか? 父上や母上が殺されても平気ですか?」 三郎もそれはわかっていた。だがどこかで考えるのを避けていた。 いつも大して悩んだりすることのない三郎も流石に返答に困り、難しい顔をして考え出した。 しばらくの無言の後、三郎が話し出した。 「うーん……みーんなと…友達になれねーかな?」 「…それは無理でしょう」 やっと出た三郎の答えはあっさりと、あっというまに否定されてしまった。 しかし三郎も無い知恵を振り絞って考えた答え。食い下がり理由を尋ねる。 「うぇー!? なんでだよ〜?」 「…出来るならとっくに誰かがやっているんじゃないですか? 人間の戦の歴史は長いです…」 「今まで出来なかっただけで、これから出来るかもしれねぇじゃねーか!」 「…確率は低いですが…まぁそういう考え方も出来なくはないですね」 「へへへ…だろ〜? オイラ戦いには足しになんねぇし、オイラはオイラのやり方で戦う! そうだ! そうしよう!」 三郎はさっきまでとは打って変わって晴れやかな表情になった。 「…最初に会った三郎殿ですね」 「ありがとうな! キラリン!」 「…私は何もしてないですよ」 「なぁ、キラリンってどんなとこに住んでるんだ? オイラ行ってみてぇな。遠くてすぐには行けねぇか?」 「…行けますが…。あまり勝手に動かれては困りますよ? 今はあまり、部外者の侵入は歓迎されていないので」 「大丈夫だって〜背丈もほとんど変わらないし! ほら、行こう行こう! 連れてってくれよ! 兄ちゃん! ちょっと遊んでくるー!」 「今日は早めに帰ってこいよ!」 「はーい! さ、行こう行こう!」 三郎に急かされ、キラリンは初めて出会った小高い丘まで案内した。 「そういえばここの地面から出てきたよなー? もぐっていくのか?」 「…ちょっと違いますね。…あれ? 三郎殿、私がここから出てくる所を見たんですか?」 「ん? あ! いやいや、この辺に倒れてたから〜って話だよ! うん」 「…ふむ。まぁ、特別な移動方法があるので、それに入るだけでいいです。ネロ君!」 キラリンが少し大きな声で地面へ呼びかけると、地面が盛り上がり、緑色のものが出てくると、それがしゃべりだした。 「あいあい、キラリン様ですな…ん? 誰かおるようだけど?」 「うわーなんだこれ! 気持ち悪りー! しかもしゃべったぁ!」 「…気持ちはわかるが落ち着いて…。これはネロ君です。彼が連れて行ってくれる。ネロ君、もう一人は三郎殿です。一緒に黄泉平へ運んでください」 「んぁーわかりました〜」 「どうやっていくんだ?」 「…まずは登録です。あとは手形だけでいいですね?」 「あい〜手を入れてくださいまし」 「うえぇ…」 三郎は裂け目に恐る恐る手を入れた。ぬるぬるして意外と気持ち良いが、見た目の問題から、逆にそれが三郎には気持ち悪かった。 「あい、三郎様ですな。登録完了ですだ」 「…よし、また手を入れれば行けます。20分ほどです。かなりの勢いで吸い込まれるから注意ですよ」 「(また突っ込むのか…)わかったー…うわあああ!!」 三郎が手を突っ込むと勢いよく吸い込まれた。それを確認した後、キラリンは追って入っていった。 二人は一気に出雲の黄泉平へと運ばれていった。 ――つづく あとがき 三郎の戦へのスタンス明言。火の勇者になってる=戦ってるってことじゃないの?と思われるかもしれませんが、 とりあえずこれでいいのです。好戦的だったら、戦が嫌になってるイヒカと仲良くなれないような気がしたのです。 |