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【浪華の火の玉小僧!鳥居堂三郎誕生】#13 |
――あらすじ―― 三郎が術が使える事を証明すべく鬼火の巻物を使うと、鬼火では通常有り得ない火の玉が現れて…。 ――黒天王が三郎を上階へ連れて行くために書斎を出てすぐ…。 「…さて、思いがけず時間が空いたな。何をするかなっと…」 「キラリン様〜たまにはちゃんと片付けて下さいよー! 夜の会議までは時間があるんですから、 とりあえず机の上のモノくらいどうにかして下さい!」 「…え…うん、まぁわかった(そういうことをしてもらうために雇った助手なんだけどな…)」 キラリンはソーラの勢いに負けて、机の上の機械を整理することにした。 様々な発明品に埋もれて、天板はすっかり隠れて見えない状態がもう数ヶ月も続いていた。 キラリンがひとつひとつを書斎の隣の倉庫へ種類別に置いていった。 そして作業開始から一時間ほどした頃。 「ピピピ! ゴセンニヒャクサンジュウ!」 「…ん?」 机の上に残っている機械のひとつが何かに反応した。 「…これは…技量測定器…読み上げ機能付だ…触れていないのに? しかもなんだこの異常な数値は」 技量測定器は技の力の容量を測定する、手のひら程度の小型の器械だ。 キラリンは測定値を初期値の零に戻し、自分のを測定した。 「ピピピ! ナナヒャクゴジュウサン!」 「…七百五十三…お…ちょっと上がった♪ まぁほぼ通常か。ソーラさん!」 「ハァーイ? うわっと!」 キラリンは書斎へ戻り、技量測定器をソーラに投げ渡した。 「…ちょっと測定してみてください。確かソーラさんは五百九十二でしたね?」 「まぁそのくらいだったかなー?」 「ピピピ! ロッピャクイチ!」 「わ〜い! 上がったー♪」 「…故障ではない…? 誤作動かな」 「なんですか〜? えいっ」 ソーラはキラリンに測定器を投げ返した。キラリンはなんとなく初期値に戻し、棚に収めた。 「ピピピ! ハッセンジュウゴ!」 「…なんだコレは…?」 また妙な動作をする測定器を手に取ろうとしたその瞬間、ドーンと大きな衝撃が襲った。 「…うわっ!」 「キャー!」 強烈な縦揺れだった。衝撃はすぐに収まったが、室内の行灯のいくつかが消えた。 「…地震か…大丈夫ですか?」 「はぁ〜びっくりしたー! 私は大丈夫でーっす! 今、行灯つけなおしますね〜」 「…これだけ大きな地震なら予告警報が出来るはず…規模に対して余震が少ない…。おかしいな…」 ――上階の射撃訓練場。 爆音は収まった。光ももう無い。怪我もしていないようだ。 熱くもないが蒸し暑い。辺りは水浸しだった。消火装置が作動して散水しているらしい。 給排気設備も、生きている物は最大の力で回転している。 黒天王は固く閉じていた瞳を開くと子供達の無事を確認した後、室内を見回した。 まだ辺りは爆発による煙でよく見えない。所々、黄色い炎がちらついている。 だが消火装置がいずれ消してくれるだろう。 「…なんと…イヒカの特殊金属がぐにゃぐにゃだ……三郎は……三郎!! 三郎ー!!」 「…ウーン…」 呼びかけに応じるように、かすかにうめき声が聞こえた。 三郎が居た台ではない。その後方、黒天王の頭の高さ辺りだった。 近づくと台後方の壁にめり込んでいた。 「オイ、大丈夫か?」 「うー…イタタタ…。まぁなんとか!」 「まったく…なんなんだお前は!?」 「どうだ? ちゃんと使えただろー?」 「わかったわかった。もう誰も疑っちゃおらんよ! なぁ?」 子供達は無言のまま、首を何度も縦に振って見せた。 すぐ、射撃訓練場の入り口が騒がしくなった。 「今のヅガーーーンって衝撃はなんだい!? 開けろ開けろぃ!」 扉に鍵はかけていない。衝撃で扉が歪んで開かなくなってしまったらしい。 「俺だ! ちょっと扉の前から退け!」 扉の向こうに黒天王がそう呼びかけ、人の気配が無くなると同時に、扉を力任せに蹴り飛ばした。 すると大人達が雪崩れ込んで来くるのを黒天王が抑える。 「おぉおぉ〜ちょっと待てちょっと待て! お前らは下がっておれ! 副将! 七十六吉(ナナジュウロクキチ)! 居たよな!」 「ハッ! ヅガーーーンとここにおりますぜ!」 「お前だけこい」 「ヅガァン…これは嫌な予感…」 「なぁにが嫌な予感か!」 そろそろと近づいた七十六吉の肩に黒天王は腕を回し、耳元に話しかけた。 「いいか、これは新術の実験だ! 他からの質問もあったらそう伝えておけ」 「えー…本当はヅガーーーンと違うんでしょう? 妙な尻拭いをさせられちゃあ、たまりませんぜぇ…」 「心配するな! 実際お前は何も知らないんだ。責任は俺が取る! それと射撃訓練場の修復を頼んでおいてくれ」 七十六吉が黒天王の背後の射撃場を覗くと、そこには黒焦げに崩れた射撃場があった。 「ヅガーーーン!! なんですかいこりゃあ! 射撃場建造に一体どれだけかかったのかご存知でしょう! 他部隊や首脳陣の反対もあるってぇのに、とても修繕費などヅガーーーンと出ませんぜ!」 「…仕方あるまい。俺にも予想出来なかったのだ。まぁお前がうまくやってくれ」 微笑みながら、軽い感じで七十六吉の肩に手を置く黒天王。 「うぅ…」 「さ! お前達はちょっと他で遊んでおれ」 「はーい。行こう! 三郎君! 怪我も治してあげる」 「おーう」 平静を取り戻した子供たちは物凄い威力の三郎の術を見て、恐れるどころか羨望の眼差しで見ていた。 力を望む根の血なのか。 「フゥ……。しっかしなんという威力だ…こんな鬼火有り得るのか… !! こ、これは…」 黒天王は煙の収まってきた室内を見渡して絶句した。 射撃訓練場の的は、ヨミの体から伸びる植物状の根に描いたもので、 根は法撃を吸収しヨミの栄養となり、多少傷ついたりしても的はしばらくすると再生する。 だが、根は焼け焦げ、えぐれて、奥の土がむき出しになっていた。 「なんとか再生はしそうだが…これは時間がかかりそうだな。 こんな状態を見るのは初めてだ…。こいつが吸収していなかったらどうなっていたことか。 ”使えるけど苦手”…か。なるほど」 ――つづく あとがき え〜、話の中で術によって根が傷ついていますが、ヨミの根は、すべてが暗黒ランと同じようなものではない…ということにしてください。 または、当時のイヒカの技術があれば多少の加工は出来る…とかね。ネロとかもそうですから。 この、「制御はできないけどありあまる技の力」というのが、三郎の今後の力の源となります。 この力の根源については後の話で書いていきます。 副将の七十六吉は、後の丹波南東部四つの小石の間にいる技減らし天狗さんです。 「ヅガーーーン」が口癖という非常にわかりやすい人なのでこの人を採用してみました。 |